2050年 カーボンニュートラルとは(後編)~企業の取り組み~

前回のコラム「2050年カーボンニュートラルとは(前編)~世界の動きと日本の取り組み~」で、カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量を、森林吸収や排出量取引などで吸収される量と差し引いて、全体としてゼロにすること」と紹介しました。後編では「森林吸収」の算出方法や「排出量取引」の具体的なやり方、さらにカーボンニュートラルに向けた最近の取り組みについて紹介します。

温室効果ガスの削減を助ける「森林吸収」「排出量取引」

森林吸収とは言葉の通り、森林のCO2を吸収する機能のこと。樹木は光合成により大気中のCO2を吸収し、内部に貯蔵して成長することが知られています。このため樹木の集合体である森林はCO2の吸収源となるのです。

1997年に京都で開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で決まった京都議定書では、温室効果ガスの削減目標にCO2の排出量削減とともに、森林吸収量が組み込まれています。各国に森林吸収量の上限値が設定されており、日本は1,300万炭素トン/年を上限として目標達成に活用することが認められました。
またこの上限値は、国際交渉の結果が色濃く反映されたもので、各国の目標達成に要する努力の度合いや、これまで実施してきた森林経営施策などが勘案されており、日本の数値は他国と比べても特例的に大きな値となっています。

ちなみに「炭素トン」とは、温室効果ガスの排出・吸収・貯蔵などの量を、相当する二酸化炭素中の炭素重量に換算した単位です。同じように「二酸化炭素トン」という単位もあり、これは二酸化炭素の重量に換算した単位。2つは概念的に同じですが、一般的に吸収量の場合は「炭素トン」を使い、排出量の場合に「二酸化炭素トン」を使う傾向があるようです。

また京都議定書でCO2の吸収源として算入される森林には一定の決まりがあり、以下の3種類に分類されています。
① 新規植林
② 再植林
③ 森林経営が行われている森林
「新規植林」と「再植林」は1990年時点で森林ではなかった場所に、それ以降植林したものをいいます。社会活動を営んでいた土地や農地など、別の土地利用から森林に転換した場合のみが認められ、日本国内での実際の対象地はごくわずかです。
一方、「森林経営が行われている森林」とは、1990年以降に間伐などの適切な整備を施した森林と、保安林に指定されている天然林も含まれ、国内に多くの対象地があります。

森林は光合成によりCO2を吸収しますが、年をとってしまった木はCO2の吸収量が少なくなるなど、温暖化防止に貢献する森林とはいえません。つまり京都議定書でCO2を吸収していると認められる森林は、植林・間伐・有効活用などの人の手が加わった、健全にCO2を吸収することができる「適切な森林経営(森林整備)がなされている森林」に限られているのです。

森林吸収量の算出はあくまでも推計

続いては、森林吸収量の算出方法です。

吸収量(炭素トン/年)=幹の体積の増加量(m3/年)×拡大係数×(1+地上部・地下部比)×容積密度(トン/m3)×炭素含有率

林野庁によると森林吸収量は上記の方法によって算出します。しかし、日本の森林面積は国土の約7割を占めており、2,500万ヘクタールという広さがあります。算出に必要な幹の体積や容積密度などは、樹木の種類ごとに決められているものの、全国の森林すべてを詳細に把握することは非常に難しく、あくまでも推定での計算となっています。

この算出方法によって導き出された日本全体のCO2吸収量は2019年実績で約1,252万炭素トンです。京都議定書での日本の森林吸収量上限値は1,300万炭素トン/年ですので、上限に近い数字ではありますが、前述の通りCO2の吸収源となる森林は限られているため、この数字がそのまま目標達成に利用できるわけではありません。今後もいかに「森林経営」に該当する森林を広げていくかが求められています。
また、カーボンニュートラルの達成に向け削減目標が引き上げられていますので、さらに一歩踏み込んだ新たな施策も必要です。

日本の排出量取引「J-クレジット制度」とは

つぎに「森林吸収」と同じく温室効果ガス削減の手段となる「排出量取引」について説明します。「排出量取引」にはいくつかの種類があり、そのひとつに「キャップ・アンド・トレード制度」があります。各企業・国などが温室効果ガスを排出できる量を「排出枠」として定め、その排出枠を超えてしまったところが、排出量の少ないところから排出枠を購入できる仕組みです。この取引によって温室効果ガスを削減したとみなすことができるのです。
現在、EUやアメリカの一部、中国、韓国などで導入されており、日本でも東京都や埼玉県で運用が始まっています。

日本国内では「排出量取引」の方法の1つとして「J-クレジット制度」が活用されています。 J-クレジット制度とは、森林によるCO2吸収量や、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用によるCO2排出削減量などを、クレジットとして国が認証する制度です。
J‐クレジットの売主(森林所有者など)はクレジットの売却益を利用することで森林管理などのランニングコスト低減や、さらなる投資の加速が図れます。購入側のメリットは、購入したクレジットをカーボン・オフセットへ活用する、製品・サービスの差別化として活用する、企業PRに活用する、ことなどがあげられます。

「排出量取引」については、J‐クレジットのほかにも、最近では途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う「二国間クレジット」という制度も注目されています。

業種ごとの温室効果ガス削減に向けた取り組み

ここまで温室効果ガス削減目標に組み込まれる「森林吸収」「排出量取引」について紹介してきましたが、続いては日本国内での削減に向けた最近の取り組みをいくつか紹介します。
日本では、排出される温室効果ガスの8割が企業活動と公共部門で占められており、カーボンニュートラルの達成を実現するうえではこれらの部門の取り組みが不可欠です。

CO2をセメント製品に「組み込む」鉄鋼業の取り組み

前編でも紹介したように、鉄鋼業は国内の製造業のなかでも最も多くのCO2を排出する業種です。2021年6月16日の日経産業新聞の記事では、大手鉄鋼メーカーがカーボンニュートラルに向けて新たな製鉄法の開発に乗り出したことが紹介されています。それは、製鉄工程で出たガスからCO2を分離・回収して、新たに水素と合成して製鉄プロセスや化学品に再利用する方法です。こうすることでCO2を外部放出せずに内部循環させるのです。メーカーによるとメタンに還元することでCO2排出量は従来比で3割減ると試算しており、残る7割についてもメタノールなど化学品へ再利用することができれば実質的なCO2排出量ゼロを実現するとの展望を発表しています。
政府が進める2億円の「グリーンイノベーション基金」でも鉄鋼業界の「水素還元製鉄」の開発を支援する動きがあり、今秋には基金の支援案件が公募される予定です。多額の資金を必要とする開発だけに、基金の配分には注目が集まります。

問題点の包括的な解決をめざすサスティナブルファッション

環境省の発表によると、現在、日本で販売されている衣類の約98%が海外からの輸入品です。衣類の生産には原材料の調達や生地の製造、輸送から廃棄に至るまでさまざまな環境負荷が生じます。1着の服をつくるうえでの環境への影響をCO2排出量に換算すると約25.5kg。これは500mlのペットボトル約255本を製造するのと同じだけの負荷です。
こうした背景を受けて、ファッション業界では、環境に配慮したサスティナブルファッションを採り入れようという動きが広がっています。サスティナブルファッションとは、衣服の生産から廃棄までの一連のプロセスにおいて、持続可能であることをめざす取り組みです。単にリサイクル素材を使うというような方法ではなく、衣類を生産するうえでの地球環境や労働環境への影響、廃棄される衣類を減らす仕組みづくりなどを通じ、包括的に持続可能であることを目指したファッションのことをいいます。
また販売店でも、大型商業施設などを中心に使用する電気を再生可能エネルギーに切り替える動きが活発になっています。

山梨県が取り組む「4パーミルイニシアチブ」とは

国内では温暖化に起因する農作物の品質低下が広がっています。たとえば、日本人の主食である米には「白未熟粒」という品質低下が現れています。白未熟粒とは、でんぷんの蓄積が足りない状態で稲穂へと成長してしまったもので、米の一部が白濁化する現象。開花から収穫までの日平均気温が27℃を上回ると多発し、食味や品質の低下につながるといわれています。

そうしたなかで農業分野でもCO2削減に向けたいくつかの動きがみられます。
果樹栽培が盛んな山梨県では、「4パーミルイニシアチブ」という温暖化対策が進んでいます。たとえば果樹園で剪定された枝を、従来は焼却していましたが、これを炭化して土に混ぜ込むことで土壌を改善するとともに大気中のCO2を地中に固定します。4パーミルイニシアチブとは、土のなかの炭素を毎年4パーミル(4/1,000)増やして大気中のCO2増加を相殺するというもの。2015年のCOP21でフランスが提案し、多数の国や機関が参画しています。日本では都道府県単位では山梨が初めて参加し、農政部が中心となって効果検証を進めています。
また、農林水産省では有機農業に力を入れています。有機農業は輸入原料や化石燃料を原料とする化学農薬や化学肥料を使わないCO2排出量の少ない農法で、2050年までに現在の40倍超の100万ヘクタールの有機農業の面積拡大を目指しています。
ただし、有機農業では病害虫の被害、生育の遅れなどがあり、面積あたりの収穫量が減ってしまうというデメリットもあります。有機農業を拡大するには、それにともなう販売価格の高騰、また収穫量の減少を補うための新たな農地の確保などさまざまな課題もあります。

おうち時間の快適性にもつながる「ZEH」

カーボンニュートラルの実現に向けては最終エネルギー消費の約30%を占める民生部門(業務・家庭部門)での取り組みも不可欠であり、新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、家庭で過ごす時間の重要性も再確認されています。そうしたなかで、新しいライフスタイルに合った省エネ住宅(ZEH)が改めて注目を集めています。
ZEH(ゼッチ)とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」のことで、①高断熱、②省エネ、③創エネの3つによって1年間で消費する住宅のエネルギー量が実質的におおむねゼロ以下になる住宅のこと。高断熱により光熱費を安く抑えることができる、夏涼しく・冬暖かいなどのメリットがあり、さらに太陽光や蓄電池を活用すれば台風や地震などの災害時にもエネルギー面では安心して生活を送ることができる住宅です。
経済産業省は政府目標のもと、国土交通省・環境省との3省連携による補助事業なども進めています。

今回紹介した取り組みはカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みのほんの一部です。国・自治体・企業など、規模や立場は違いますが、それぞれが個々の特性を生かした取り組みを始めています。今後も世界の動きとともに、注目が集まります。

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