「今月のことば」…最近話題の環境・エコ・省エネに関することばを解説します。

今月のことば:環境負荷の少ない火力発電燃料「LNG」

2020年12月から2021年1月にかけて日本卸電力取引所(JEPX)のスポット単価が大幅に上昇し、話題となりました。単価上昇の背景の1つに火力発電所の燃料として使用されている「LNG」の不足が指摘されています。
電力価格の高騰が危惧されるなか、電力各社からは企業や家庭へ向けて節電の協力が呼びかけられました。さらに電力業界では自社電源を持たない新電力を中心に経営の悪化が露見するなど、業界全体で電力の仕入施策を見直す大きな転換点とも言える出来事となりました。現在日本では、海外から大量のLNGを輸入し、発電燃料として使用しています。今回は、わたしたちの生活に欠かせない「LNG」について説明します。

LNGは「クリーンな燃料」

LNGとは「Liquefied Natural Gas」の頭文字をとったもので、日本語では「液化天然ガス」と訳されます。石油や石炭と同じ化石燃料の一種で、ガス田や油田から採掘された天然ガス(気体)を分離・精製し、液化したものがLNGと呼ばれています。太古の昔に生息していた海洋のプランクトンや魚類、動物などの死骸が蓄積し、長い年月をかけて地熱や圧力によって化学変化をおこし、天然ガスや石油へと生まれ変わるのです。

LNGは石油や石炭に比べ、燃焼時の二酸化炭素発生量が少ないのが特長の1つです。さらに液化されるなかで、産出されたときに含まれていた硫黄分などの不純物が取り除かれるため、燃焼しても酸性雨や大気汚染の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物、ばい煙などがほとんど発生しません。こうしたことから「クリーンな燃料」ともいわれています。

さらに天然ガスは、-162℃という超低温に冷却すると液体(LNG)になり、体積が気体の約600分の1にまで小さくなります。たとえるなら、東京ドーム全体(124万㎥)の気体が、風呂の浴槽10杯分(約2,000L)の液体になるということ。天然ガスを運ぶ方法として、気体のままパイプラインで運ぶ方法もありますが、日本のような島国や産出地から遠く離れた場所では、LNGにしてからタンカーで輸送する方法がとられています。運ばれたLNGは受け入れ基地のタンクで一時的に貯蔵され、これを温めることで液体から再び気化させ、燃料として使用します。

天然ガスをLNG(液体)に精製できるようになったことで、格段に輸送・貯蔵が楽になり、日本をはじめ世界各国での活用も増えていきました。こうした動きに対応して、産出地でも大規模な開発が進められ、2008年から2018年までの間で天然ガスの生産量の年平均伸び率は2.5%を記録しています。近年では、天然ガスを輸送用燃料などに活用する新たな技術の研究開発も進んでおり、日本企業の参画も見られます。

世界各地に産出地が点在するメリットは?

天然ガスの産出地は、中東地域が中心の石油と比べ、中東以外にもアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、オーストラリア、東南アジアなど世界各地に存在しています。2019年の天然ガスの国別産出量ランキングを見ると1位はアメリカで9,209億㎥、2位はロシアで6,790億㎥、3位がイランで2,442億㎥と続きます。産出国が広く世界各地に分布しているということは、需要側にとって供給先の多様化が図れるということ。仮に自然災害や国際情勢が不安定になるなどのトラブルが起こっても、安定的に燃料が調達できるわけです。

なお、アメリカの突出した産出量の背景には、2000年代後半のシェールガス革命があります。シェールガス革命とは、掘削技術の進歩により、これまで経済的な採取が不可能だった頁岩という地層に含まれる天然ガス(シェールガス)の採取が可能になったことをいい、アメリカでは生産量の増加にともない、LNG輸出プロジェクトも多数始動しています。しかし一方で、シェールガスの採取は、森林伐採や掘削工程での水質汚染などさまざまな環境への影響も懸念されており、一言で「クリーンな燃料」の拡大というには難しい問題も抱えているようです。

日本国内でのLNG輸入増の背景

現在日本では、LNG消費量の97.7%を輸入に頼っています。日本では1960年頃まで水力や石炭など国内資源を活用したエネルギー供給が主流であり、当時のエネルギー自給率は58.1%でした。その後高度経済成長期にエネルギー需要が高まり、安価な石油が大量に輸入されるようになりました。1970年頃までの日本の第一次エネルギーの約4分の3が石油でしたが、その後2度の石油ショックを経験したことで、新エネルギーの開発が進み、LNGの活用も増えていったのです。
2019年のLNG輸入量ランキングを見ると、日本は1,055億㎥で世界最大です。次ぐ2位の中国が848億㎥、3位の韓国が556億㎥ですから、ダントツの輸入量といえます。(※1)輸入先はオーストラリア、マレーシア、カタールなどです。
また、日本に輸入したLNGの60.3%は発電に使われ、次いで33.2%は都市ガスにと、広くわたしたちの生活を支えるエネルギーとなっています。そして東日本大震災以降は原子力発電所の稼働が減るなかで、LNGがさらに大きな存在となっているのです。

ちなみに、比率はほんのわずかですが日本国内でも国産の天然ガスが産出されています。生産量は、2018年において約27億㎥(LNG換算で約186万トン)。国内最大のガス田がある新潟県(南長岡ガス田)をはじめ、千葉県、北海道、秋田県、宮崎県など、約60カ所に天然ガス鉱山が存在しています。(※2)

2021年1月のLNG不足はなぜ起こった?

前段でLNGの産出地は世界に点在しているので、安定的に調達をしやすいとご紹介しましたが、そんななかで、なぜ今冬のLNG不足は起きたのでしょうか。一昨年から振り返ってみましょう。2019年、日本では天候に恵まれ再生可能エネルギーによる発電量が増加し、電力会社は過剰になったLNG在庫バランスを調整するため、輸入量を徐々に減らしていきました。さらに2020年には新型コロナウイルスの影響による4月の緊急事態宣言以降、電力需要が大幅に減少しました。
一方、オーストラリアのLNG生産設備障害やパナマ運河の混雑といった要因が重なり、2020年12月から翌年1月にLNG価格が上昇し、アジア市場のLNGが品薄になっていました。そうしたなかで2020年12月後半から日本全体に数年に一度レベルの寒気が流れ込み、大雪の影響などから、太陽光など再生可能エネルギーの発電量が一部地域で低下しました。暖房需要が増加し、各地の電力会社は急遽LNG火力の発電量を増やした結果、LNG在庫量が低下しました。さらにLNG火力発電所の停止や出力低下といった事態も重なり、電力のひっ迫に拍車をかけることになったのです。(※3)

もっと環境にやさしい「LNG」とは

環境にやさしい「クリーンな燃料」と言われるLNGですが、採掘から液化・輸送され消費されるまでの間にまったくCO2を発生させないというわけではありません。最近になり、LNGの生産や消費に伴って発生するCO2を実質的にゼロにする「カーボンニュートラルLNG(CNL)」に取り組むエネルギー企業が出てきました。
これは、LNGに関わるCO2相当分を植林などの手段で削減・吸収し、排出を差し引きゼロとみなすもの。CNLを利用するにはクレジット分の費用を負担することになりますが、国内企業のなかでも大手ガス会社、宿泊業、製造業などが「環境対応策」の目的で利用を始めています。課題としてLNGのCO2排出量や削減効果の基準が確立されていないなどの点も指摘されていますが、現状ではこれまで通りに天然ガスを利用しながら「脱炭素」へと近づく手段のひとつといえます。

ここまで広くLNGの有効性やLNGを取り巻く状況を見てきました。豊富な生産量をもつLNGですが、石油や石炭と同様、限りある資源であることは変わりません。最近では、LNGと同様環境にやさしい次世代エネルギーとして水素やアンモニアなども話題にのぼり、国をあげての研究開発・実証実験などが進められています。
再生可能エネルギーの導入も進んでいますが、LNGを燃料とした発電スタイルは今後も当分続いていくでしょう。今回は、日本のエネルギー施策と深い関わりのあるLNGについて紹介しました。

(※1) 出典:BP Statics Review of World Energy 2020
(※2)出典:エネルギー白書2020
(※3)参照元:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「天然ガス・LNG価格動向2021年1月」資源エネルギー庁「電力需給及び市場価格の動向について」

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